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はじめに ─ 年1回の研修を、どう振り返るか
社内で新卒向けのITSM研修を担当しています。今年で2回目の実施を終え、来年の3回目に向けて講師・補助講師で振り返り会を行いました。
振り返り会自体はフリーディスカッション形式です(フリーとはいえ、ITILの4つの側面で考えてみよう、といった「上手に発散させる」ための考え方の軸はいくつか示しました。これはまた別途記事にしようかなと思っています)。
模造紙が使いにくかった話から会場レイアウトの問題、大阪拠点との情報格差まで、いろいろな話題が出ました。会話としては盛り上がったのですが、問題は ここから先 です。
出てきた内容を、どうやって整理するか。
1年後の自分、あるいは引き継ぐかもしれない後任が読んで、「何をやめて、何を始めて、何を続けるのか」が一目でわかる形にしたいと考えました。
最初に思い浮かんだのはKPT(Keep / Problem / Try)でした。ただ、年1回の研修だと「Try」が抽象的になりがちで、しっくりきません。「問題はわかった、で、具体的に何をする?」が曖昧になる気がしました。また、「やめること」と「新しく始めること」を明確に分けて整理したいという気持ちもありました。
調べていく中でたどり着いたのが DAKI(ダキ) というフレームワークです。
DAKIとは
DAKIは、振り返りの結果を4つのカテゴリに分類するフレームワークです。
- 🔴 Drop(やめること)── 今回やったが、次回はやめる
- 🟢 Add(追加すること)── 今回はなかったが、次回から取り入れる
- 🔵 Keep(続けること)── うまくいったので、そのまま続ける
- 🟡 Improve(改善すること)── やったが、やり方を変えて改善する
KPTとの一番の違いは、全項目がアクションに直結することです。KPTの「Problem」は問題の認識であって、アクションではありません。DAKIでは「Drop(やめる)」と「Add(始める)」がセットで存在するため、「やめるなら代わりにどうする?」 という思考が自然に生まれます。
もうひとつ、「Keep(そのまま続ける)」と「Improve(やり方を変えて改善する)」が分かれているのも気に入りました。KPTのKeepは「良かったこと」の列挙になりがちですが、DAKIでは「変えずに続ける」と「やり方を変える」が明確に区別されます。
DAKIで整理すると決めたとき、もうひとつ考えたことがあります。各項目には 「何をするか」 だけでなく、「なぜそうするか」 も書き残そう、と。アクションだけ残しても、1年後に「で、なぜこれやめたんだっけ?」がわからなくなるのが目に見えていたからです。そこで各項目に 「内容」と「理由・背景」 の2軸を持たせることにしました。
実際に今回の研修振り返りをDAKIで整理したものから、各象限1つずつ抜粋してたものがこちらです。

各項目に「内容(何をするか)」と「理由・背景(なぜそうするか)」が対になっているのがわかると思います。この構造が、次のセクションで紹介する「4Lとの関係」で効いてきます。
DAKIだけでは足りなかった ─ 4Lの「Longed For」を借りてきた
DAKIで整理を始めてみると、うまく分類できない話題がありました。
たとえば、「大阪のメンバーを研修期間中だけでも東京に集約したい」「会場をもっと動きやすいレイアウトに変えたい」といった話。振り返り会で自然に出てきた声ですが、来年すぐに実現できるかというと、予算や調整の壁があります。
DAKIの4象限はいずれも 「次回どうするか」という現実的なアクション を前提にしています。Improveに入れると「次回の改善タスク」として扱われ、温度感が違う。かといって、記録しないのはもったいない。
そこで調べたのが 4L(フォーエル) というフレームワークです。
- Liked(良かったこと)
- Learned(学んだこと・気づいたこと)
- Lacked(足りなかったこと)
- Longed For(理想・こうだったらいいのに)
最初は、4Lのうち Longed For だけを借りてくればいいかなと考えました。ただ、ふと面白いことに気づきました。
Liked / Learned / Lacked の3つは、DAKIの各項目の「理由・背景」にすでに集約されているのです。
先ほど抜粋したDAKIの例を、4Lの視点で見直してみます。
K-1(前に出て発表する形式を続ける)の理由・背景:
音響面で大阪にも声が確実に届く。プレゼンの練習にもなる。大阪側からも発表者がまとまって見えてわかりやすかった
これはまさに Liked(良かったこと) です。「良かったから続けたい」── Likedがそのまま、Keepの理由・背景になっています。
A-2(ワーク中の要点まとめスライドを用意する)の理由・背景:
受講者がワーク中に何をすればいいか見失う場面があった
これは Lacked(足りなかったこと) そのものです。
I-3(グループの席配置を固定化する)の理由・背景:
補助講師が巡回した際にどのグループか即座に判別できなかった
これは現場で Learned(気づいたこと) として語られた内容です。
つまり、DAKIの各項目に「理由・背景」を書くようにしたことで、意識せずとも 4Lの Liked / Learned / Lacked が自然に取り込まれていた わけです。DAKIが What(何をするか) を整理するフレームワークだとすると、4Lの3要素は Why(なぜそうするか) を補完する関係にあったのです。
一方、Longed For だけはDAKIのどこにも収まりません。「アクションにはまだ落ちないが、チームの理想として記録しておきたい」── その性質はDAKIの4象限とは根本的に異なります。
そこで、Longed Forだけを5つ目のセクションとして追加し、DAKI+L(ダキエル) としました。

最終的にDAKI+Lで整理した結果から、各セクション1つずつ抜粋したものがこちらです。

DAKI+Lの設計ポイント ─ 実際の整理結果から
フレームワークの枠が決まったので、あとは実際に整理していくだけです。その中で工夫した点をいくつか紹介します。
列構成を全セクション統一する
先ほど触れた「内容」と「理由・背景」の2軸を、5つのセクションすべてで統一しました。具体的には 「# / 項目 / 内容 / 理由・背景」 の4列です。
- 内容(What):具体的に何をするか・しないか
- 理由・背景(Why):なぜその判断に至ったか
セクションによって列を変えたくなる誘惑がありますが(Longed Forには「実現可能性」列を足したくなる、など)、統一した方が一覧したときに読みやすく、整合性のチェックもしやすいです。
相互参照で項目間の関係を見せる
Drop↔Add、Drop↔Improveは対になりやすいので、項目間に参照を付けます。先ほどのD-1と、その参照先であるA-1を並べてみます。

「D-1でやめる → A-1で代わりにこうする」が一目でわかります。Dropした項目に代替策がない場合もあります。効果がなかったから純粋にやめる、という判断は当然あり得ます。ただ、相互参照を付ける運用にしておくと、「本当に代わりが要らないか?」と立ち止まるきっかけ になります。うっかり代替策を考え忘れていた、というケースを防げます。
Longed Forには「次の一歩」を添える
理想を書いて終わりにしないことが大事です。「いつかやりたい」のままだと、1年後も「いつかやりたい」のままです。

最小のアクションでいいので書いておく。それだけで、次の担当者が動き出すハードルがぐっと下がります。
AIで構造化した話
ここまで紹介してきた整理を、今回はAIを使って効率化しました。振り返り会の録音からトランスクリプト(文字起こし)を作成し、それをAIに渡してDAKI+Lの形に構造化させています。
AIに渡したプロンプトを公開します。
# 振り返り整理プロンプト(DAKI + Longed For フレームワーク)
## あなたの役割
あなたは振り返りファシリテーターです。提供されたトランスクリプト(議事録・会話ログ)を読み解き、次回に向けた振り返りを「DAKI + Longed For」フレームワークに沿って構造化してください。
## フレームワーク定義
以下の5セクションで整理します。
| セクション | 意味 | 対象 |
|—|—|—|
| 🔴 Drop | やめること | 今回実施したが、次回はやめるべき事項 |
| 🟢 Add | 追加すること | 今回はなかったが、次回から新たに取り入れたい事項 |
| 🔵 Keep | 続けること | 今回うまくいったので、次回も継続すべき事項 |
| 🟡 Improve | 改善すること | 今回実施したが、やり方を変えて改善すべき事項 |
| 🌟 Longed For | 理想・中長期 | すぐには実現困難だが、理想として目指したい事項 |
## 出力フォーマット
### 各セクション共通の列構成
すべてのセクションで以下の4列テーブルを使用してください。列名はセクションによって変えないでください。
| # | 項目 | 内容 | 理由・背景 |
– #: セクションの頭文字+連番(例:D-1, A-1, K-1, I-1, L-1)
– 項目: 太字で簡潔なタイトル
– 内容: 具体的に何をするか/しないか。必要に応じて運用フローや補足も記載
– 理由・背景: なぜその判断に至ったか。トランスクリプト中の発言・事実に基づく
### 項目間の相互参照
– セクションを跨いで関連する項目がある場合、(→ A-1)(→ D-2の改善策)のように相互参照を付与してください
– 特にDrop↔Add、Drop↔Improve は対になりやすいので意識してください
### 補足メモの扱い
– 独立したメモセクションは作らず、関連する項目の「内容」欄に <補足> として統合してください
### 全体構造マップ
– 最後に Mermaid の flowchart で全体構造マップを生成してください
– 各項目をノードとし、関連する項目間を点線矢印でつないでください
– セクションごとに subgraph でグルーピングし、色分けしてください
## 作業手順
1. 抽出: トランスクリプトを通読し、振り返りに該当する発言・論点をすべて抽出する
2. 分類: 抽出した内容を5セクションに分類する。1つの発言が複数セクションに関わる場合は、主たるセクションに配置し、他セクションへは相互参照で繋ぐ
3. 構造化: 上記フォーマットに沿ってテーブルを作成する
4. 整合性確認: 以下を自己チェックする
– Drop と Add/Improve に対応関係があるか(やめるだけで代替策がないものはないか)
– Keep の項目が Add や Improve と矛盾していないか
– Longed For に短期的な対策(Add/Improve)が紐づいているか
5. マップ生成: 全体構造マップを Mermaid で出力する
## 注意事項
– 振り返りの成果物は「チームとしての合意」として整理してください。発言者の帰属よりも、内容(What)と理由(Why)を優先してください
– 必要に応じて「役割・立場」(例:講師視点、現地担当視点)を補足として付記することは可
– トランスクリプトに明示されていない推測や補足を加える場合は、その旨を明記するか、ユーザーに確認してください
– 「内容」欄には What(何をするか)を、「理由・背景」欄には Why(なぜか)を書いてください。混在させないでください
AIを使ううえでの注意点
便利ではありますが、AIの出力をそのまま使うのはおすすめしません。
今回も、トランスクリプトと突き合わせたところ、「トランスクリプトに明示されていない推測」が混入していたケースがありました。たとえば、振り返り会では具体的に言っていなかった「講師への個別質問が頻発した」という記述を、AIが文脈から補完していたことがあります。
AIは構造化が得意ですが、「言ってないことをもっともらしく書く」のも得意です。トランスクリプトとの突き合わせ──ファクトチェックは必ず行ってください。
まとめ ─ DAKI+Lが合う場面
DAKI+Lは以下のような振り返りに向いていると感じました。
- 年1回、半年に1回 のような低頻度の振り返り。スプリントごとならKPTや4Lの方が軽量で合う
- チームの合意 を構造化したいとき。個人の内省を深めるなら4L単体の方が向いている
- 「整理用」のフレームワーク として。振り返り会の進行にDAKI+Lを使う必要はない。会議はフリーディスカッションで構わなくて、出てきた内容を後から整理する道具として使う
Longed Forがあることで、「言っても仕方ないけど…」という声も記録に残せます。書いておけば、来年状況が変わったときに動き出せる。書いていなければ、そのまま忘れられます。
プロンプトも載せたので、振り返りの整理に困っている方がいれば、試してみてください。


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