はじめに
会社に所属していると、人事異動・退職・転職などなどで業務の引継ぎをしたり・されたりする場面が必ずあります。先日、自分自身が異動を経験し、引継ぎで苦労したこともありましたので、自分の備忘録もかねて書こうと思います。
なお、僕は現在、とある製造会社の社内SEとして働いています。担当しているシステムは基本的に社内向けのWebシステムであるため、組込みシステムやクラサバシステムなどの場合にはまた違った引継ぎ項目が必要になるかもしれません。下記状況を背景とした記事となります。
- システム:社内で利用されるWebシステム
- 主なOS:Windows Server
- 主なDB:Oracle
- 主な構成:APサーバ、DBサーバ
- 主な開発環境:Visual Studio
- その他:基本的に社内イントラ内でのみ利用される
引継ぎ項目
引継ぎには、「後任者がスムーズに業務を引き継げるようにする」「ユーザーへの影響を最小限に抑える」という目的があります。その観点で次の資料を用意してもらえるとありがたいです。
# | 資料名 | なんのために用意するのか |
---|---|---|
1 | 担当システム一覧表 | ・引継ぎ対象の全体像をつかんでもらうため ・必要な技術要素を明らかにし、後任選定時の参考とするため |
2 | サーバー一覧表 | ・システムごと管理対象となるサーバを把握してもらうため (例:開発サーバ、本番サーバ・・等) |
3 | システムURL一覧表 | ・どういうWeb環境が用意されているのか把握してもらうため (例:開発環境用URL、検証環境用URL、本番環境用URL・・等) |
4 | TNS設定一覧表 | ・データベースに関する運用保守環境を構築するため |
5 | データベースID/PW一覧表 | ・データベースに関する運用保守環境を構築するため |
6 | 業務一覧表 | ・業務を確実に引き継げるようにするため |
7 | 残件一覧表 | ・残件について継続対応できるようにするため |
なお、上記以外にも、システムの機能一覧表や画面一覧表、バッチ一覧表なども必要ですが、それらは「引継ぎ時」というよりも日ごろから管理・用意しておくべきものですので、あえてここにはリストアップはしていません。
担当システム一覧表
次の項目を含めてください。なお、下記各項目について、それらが別資料にまとめられている場合には、概要情報を一覧表に記載しつつ、参照先を明記してください。
一覧表に概要が記載されていることで、全体の概要をざっくりと知ることができ、スムーズに引継ぎしやすくなるためです。逆に言えば、概要の記載がなく参照先だけ書かれていると、網羅性が低くなるため全体の概要をつかみにくくなり効率が悪くなります。特に引継ぎ対象のシステムが多数ある場合は必ず概要を記載してください。
- システム名
- システム概要
- そのシステムが何を行うためのシステムかを記載すること。
- どういうユーザーがどういう目的で使用するのかが記載されているとよい。
- 複数の役割を持つ大きなシステムの場合は、全体概要を記載し、可能であればサブ機能ごとに概要が書かれているとなおよい。
- OS・サポート期限・会社の方針としての更新期限
- Windowsの場合「Windows」だけでなく「Windows Server 2019」などと記載すること。なぜならWindowsサーバのバージョンによってサーバ更新時期などが変わるため。引き継いだシステムのサーバ更新のためにいつごろから対応が必要なのかの目安となる。
- 会社の方針としての更新期限がある場合は、そちらも記載すること。
- 複数サーバで構成される場合は各サーバごとに記載すること。
- データベース・サポート期限・会社方針としての更新期限
- システム/バッチの開発言語・開発環境
- 各種の開発言語を記載すること。なぜなら、後任選定時の参考とされるため。また、後任者が対象言語についてのスキルがない場合、それらスキルを学ばなければなならない、ということを引きつ説明時にしっかり認識してもらう必要があるため。
- 連携システム有無・名称
- 対象システム単体で完結するシステムなのか、他のシステムとのデータ連携があるのかを記載すること。なぜなら、保守していく際の影響範囲を正しくとらえる必要があるため。
- この連携情報を正しく引き継げないと、最悪の場合は連携先のシステムの障害にもつながることがある。
- 開発環境
- 開発環境についてバージョン情報も含めて記載すること。なぜなら、後任者が開発環境を正しく構築できるようにする必要があるため。例えばVisual Studioで開発している場合、バージョンによって扱えるフレームワークが変わることがあり、構築する開発環境によっては、追加ライセンスを購入しなければならない可能性もある。
- 例えば、前任者はVisual Studio 2019 で開発していたが、後任者は組織で所有しているライセンスの都合上、Visual Studio 2017を与えられてしまうかもしれない。その場合、.NET Coreを使った開発が出来ない可能性がある。
- ソースの管理方法・管理場所
- システムやバッチ等、開発したもののソースをどのように管理しているのかを記載すること。例えば、バージョン管理のためのツール(Git/TFS/SVN・・等)を使っているのか、サーバー上でフォルダ名などで管理しているのかなどを記載するとよい。なぜなら、後任者がシステムへの機能追加などを実施する際、必ず最新のソースに対して変更を加える必要があるため。
- 設計書類の有無・管理場所
- システムやバッチの設計書類の場所を記載すること。
- こちら側の体制
- 問い合わせ窓口担当者名、運用担当者名、保守担当者名・・・等を記載すること。
- ユーザ側の体制
- 業務の窓口担当者名、業務側のキーマン名、課長・部長名・・・等を記載すること。
サーバー一覧表
次の項目を含めてください。ここでは1システムにつき、1台以上の専用サーバがあるという前提でリストアップしていますが、1台のサーバに複数システムが同居している場合には、整理の仕方を適宜買えるようにしてください。
- システム名
- サーバーID(あるいはサーバー名)
- IPアドレス
- ホスト名
- サーバ用途
- Webサーバなのか、DBサーバなのか、またそれらが開発用のサーバなのか本番用のサーバなのかといった情報を記載すること。
- ログインID/PW(複数のログインIDがある場合は別途一覧表に整理したほうが良い)
- ログオフ可否(サーバーへリモート接続していると想定)
- サーバでの作業後、リモート接続を切る際に、「切断」したほうが良いのか「ログオフ」したほうが良いのかを具体的な理由とともに記載すること。
- 「切断」の方が良い事例:ログオフするとバッチが正常起動しなくなるような場合。具体的なバッチ名等や理由を記載し、ログオフしないことを明記する。(別途、壁紙などに「ログオフ禁止」といった文言を設定するなどの対策をしておくとなおよい。)
- 「ログオフ」の方が良い事例:ログオフしても影響がない場合。サーバーリソース(メモリやCPU等)を節約できる。
システムURL一覧表
次の項目を含めてください。
- システム名
- URL(ログインページ)
- 用途
- 開発用/検証用/本番用といった情報とともに、どういう目的で用意されたサイトなのかを明記すること。
- 例えば、開発用はシステム開発者(チーム)しかアクセスできないため、開発途中の機能を随時デプロイしても問題ないが、検証用はユーザにも利用してもらうことがあるため、基本的には本番環境とおなじリソース(あるいは本番環境デプロイ前の最終確認版のリソース)だけをデプロイする必要がある、といった情報。
- ユーザー公開有無
- そのURLをユーザーに公開している/いない、あるいは公開してよい/よくない、といった情報を記載すること。
- ログインID/PW
- システムにログインする際のID/PWを必要に応じて記載すること。
- 取扱注意な情報であるため、所属組織の管理ルールにのっとって適切に扱うこと。
TNS設定一覧表
次の項目を含めてください。なお、ここでは、データベースサーバにたいして、自分のノートPCなどローカル環境からOracleクライアントで接続することを想定しています。
- システム名
- TNS情報(tnsnames.oraに記載する内容)
データベースID/PW一覧表
次の項目を含めてください。
- システム名
- 接続モード(nomal, sysdba等)
- ログインID/PW
- 用途
業務一覧表
次の項目を含めてください。
- システム名
- 業務区分・作業区分
- 運用業務/保守業務/管理業務・・・等を記載すること。
- 業務名・作業名
- 業務や作業の内容がわかるような名称を記載すること。
- 業務概要
- どういう業務なのか概要がわかるような説明文を記載すること。
- 対応頻度・依頼頻度
- 日次/週次/月次/期次/年次/都度(例:1ヶ月にxx回)・・・等を記載すること。後任者が、どれくらいの頻度でその業務を行う必要があるのかを分かるようにするため。
- 平均作業時間
- その業務を行う上で、一回当たりに必要となる平均時間、あるいは日/月などに要する平均時間を記載すること。後任者がどの業務にどれくらいパワーがかかるのかをわかるようにするため。
- 業務開始のトリガー
- 何をきっかけにその業務を行うのかを記載すること。対応依頼のメールが来るのか、ワークフローシステムによる依頼がくるのか、時期が来たら自発的に対応する必要があるのかを記載する。
- 依頼元
- 代表的な依頼部門や依頼者を記載すること。
- 詳細資料の場所
- 具体的な作業手順や詳細資料などの場所を記載すること。
残件一覧表
次の項目を含めてください。
- システム名
- 残件タイトル
- 残件の概要
- どういうことをすべきなのか、最終的なゴール等を記載してください。
- 現在の状況
- だれがどこまでやったのかがわかるように記載してください。
- 今後の対応
- 後任者がなにから始めたらよいのかがわかるように記載してください。
- 関連情報
- 依頼元や関係者とのメールやチャット等のコピー(PDF等)の有無や、それらがある場合は保管場所などを記載してください。
最後に
引継ぎ資料は非常に大切です。後任者のためだけでなく、自分のためにもなりますので、しっかり用意したほうが良いですね。
この記事は僕個人の経験もとに記載したものです。もし同じように引き継ぎで苦労した方や、記載事項にアドバイスいただける方はぜひご連絡ください!
コメント